SLE患者さんの妊娠へ
                                                              

全身性エリテマトーデス

発病率は10万人あたり10~100人と推定されている。若年女性に好発し、発症年齢は20~40歳代であることが多い。
遺伝的素因を背景として、感染、性ホルモン、紫外線、薬物などの環境因子が加わって発症するものと推測されている。

自己抗体、特に抗DNA抗体が過剰に産生され、抗原であるDNAと結合して免疫複合体を形成される結果、組織に沈着して補体系の活性化などを介して炎症が起こされる。

治療法の進展により、90%以上の患者が10年以上生存している。死亡原因としては、疾患そのもの、あるいは治療による免疫不全からの感染症が多い。ループス腎による腎不全もまだ少なくない。

検査(血液検査)

症状

(1)全身症状

全身倦怠感、易疲労感、発熱などが先行することが多い。

(2)皮膚・粘膜症状

蝶形紅斑とディスコイド疹が特徴的である。蝶形紅斑は頬のみならず鼻梁に掛かるのが特徴である。日光暴露で憎悪する。皮膚生検では、真皮表皮結合部IgGの沈着が認められる(ループスバンドテスト陽性)。ディスコイド疹は顔面、耳介、頭部、関節背面などによくみられ、当初は紅斑であるが、やがて硬結、角化、瘢痕、萎縮をきたす。このほか凍瘡様皮疹、頭髪の脱毛、日光過敏も本症に特徴的である。口腔、鼻咽腔に無痛性の潰瘍が出現することもある。

(3)筋・関節症状

筋肉痛、関節痛は急性期によくみられる。関節炎もみられるが、骨破壊を伴うことはないのが特徴である。

(4)腎症状

糸球体腎炎(ループス腎炎)は約半数の症例で出現し、放置すると重篤となる。急性期では、蛋白尿がみられ、尿沈渣では赤血球、白血球、円柱などが多数出現する( telescoped sediment)。

(5)神経症状

中枢神経症状を呈する場合は重症である(CNSループス)。うつ状態、失見当識、妄想などの精神症状と痙攣、脳血管障害がよくみられる。髄膜炎、脳炎、脳神経障害も稀ではあるがみらることがある。

(6)心血管症状

心外膜炎はよくみられ、タンポナーデとなることも稀にある。心筋炎を起こすと、頻脈、不整脈が出現する。弁膜病変は一般に無症状であるが、軽度の大動脈弁不全や僧帽弁不全を起こすことがある。また、弁尖に疣贅を形成してLiebman-Sachs 心内膜炎を呈することもある。また、反復する血栓性静脈炎を起こす場合には、抗リン脂質抗体症候群の合併が疑われる。

(7)肺症状

胸膜炎は急性期によくみられる。このほか、間質性肺炎、細胞出血、肺高血圧症は予後不良の病態として注意が必要である。

(8)消化器症状

腹痛がみられる場合には、腸間膜血管炎やループス腹膜炎に注意する。稀に膵炎を起こすこともある。肝障害は軽度かつ一過性のことか多い。

(9)造血器症状

溶血性貧血はよくみられ、直接クームス試験陽性で、網状赤血球の増加とハプトグロビンの低下などの所見から診断される。白血球減少や血小板減少もよくみられ、抹梢での破壊によるものと考えられている。抗リン脂質抗体症候群では、血栓症の多発、血小板減少に基づく出血症状などがみられるが、APTTの延長とともに抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントなどが出現し、梅毒血清反応の生物学的偽陽性などがみられることもある。

(10)その他

リンパ節腫脹は急性期によくみられる。


合併症

ループス腎炎
中枢神経ループス
間質性肺炎、
肺胞出血、
肺高血圧症
抗リン脂質抗体症候群、シェーグレン症候群Sjögren syndrome)、その他免疫疾患

治療

1) 非ステロイド系消炎鎮痛剤(NSAID)

発熱、関節炎などの軽減に用いられる。ただし、全身性エリテマトーデス患者は薬剤アレルギーを起こしやすいこと、NSAIDの長期投与は消化管潰瘍、腎障害などを起こしやすいこと、などに注意することが必要である。

(2) ステロイド剤

全身性エリテマトーデスの免疫異常を是正するためには副腎皮質ステロイド剤の投与が必要不可欠である。
一般には経口投与を行ない、疾患の重症度により初回量を決定する。軽症例ではプレドニゾロン換算で1日15~30mg、腎症のあるものは40mg以上、治療抵抗性のものは60~80mgが用いられる。
初回量は2~4週間前後継続したのち、臨床症状、理学的所見、検査所見などの改善を指標として2~4週毎に10%を目安に漸減する。疾患活動性の指標としては、血清補体価、C3、C4、抗DNA抗体価(特に抗体dsDNA抗体) が有用であるほか、血沈、尿蛋白、尿沈渣、血算などの検査所見が参考となる。ステロイド抵抗性の症例では、メチルプレドニゾロン1日500~1,000mgを3日間点滴静注するステロイド・パルス療法が用いられる。ステロイド剤の維持量としては、プレドニゾロン換算で1日10mg以下が望ましい。  

ステロイド抵抗性の症例やステロイド剤に対する重篤副作用が出現する症例においては免疫抑制剤の投与が考慮される。免疫抑制剤としては、アザチオプリン (1日量50~100mg)あるいはシクロホスファミド (1日量50~100mg) の経口投与がよく用いられる(保険適応ではない)。しかし最近では、シクロホスファミド500~750mgを1~3カ月ごとに点滴静注するエンドキサン・パルス療法が難治性病態に対してよく用いられる(保険適応外である)。本法は有効性が高いばかりでなく、出血性膀胱炎、骨髄抑制などの副作用の発現が経口投与に比較して少ない。また、ミゾリビン(1日量150mg) の経口投与は、ループス腎炎に対して有効であることが報告されている。タクロリムス(プログラフ)にループス腎炎の効能が追加になっている。

(3) その他

高血圧を伴う場合には、腎機能障害の進行を防ぐためにも積極的な降圧療法が必要となる。腎機能が急速に悪化する場合には、早期より血液透析への導入を考慮する。  

急性憎悪型では、急性期を脱すれば透析を離脱する可能性がある。慢性憎悪型には早めに内シャントを作成する必要があり、持続的な透析が必要となる。抗リン脂質抗体症候群を合併している場合には、積極的な抗凝固療法が行われる。

そのほか病態に応じたさまざまな生活指導が行われる。光線過敏症がある場合には日光を避ける生活が必要となる。腎症が悪ければタンパク制限などが必要となる。

治療薬の副作用

ステロイド
満、骨粗しょう症、骨壊死、高血圧、高脂血症、糖尿病、白内障、緑内障、易感染性、体液貯留傾向

非ステロイド系抗炎症鎮痛薬

消化管出血、肝機能障害、腎機能障害

シクロフォスファミド
骨髄抑制、癌(持続的内服にて報告されたもの)、出血性膀胱炎、不妊症

ミコフェノール酸モフェチル
骨髄抑制、吐き気、下痢

(参考として治療の補足)

本症におちいった患者は、安定していても終生少量のステロイドを服用しつづける必要がある。科学的または疫学的な根拠があるわけではない。自発的に内服をやめてしまった患者の観察などにより、おそらく終生のみ続けなければいけないであろうことは国際的なコンセンサスとなっている。

本症を急激に発症した最初のときと、CNSループス、ループス腎炎や血液学的異常(血小板減少など)の急激な増悪(フレア・アップ)がおこったときには、強力な治療が行われる。高用量のステロイド内服、ステロイドパルス療法、シクロフォスファミドパルス療法などが行われ、そのほか病態に応じては血漿交換や免疫グロブリン大量投与が行われることがある。
また、ステロイドの副作用を免疫抑制剤の併用によって減らす効果もねらって、アザチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリンを使用する場合もあるほか、新しい治療法としてリツキシマブ、造血幹細胞移植が脚光を浴びている(いずれも日本国内での適応はない)。
シクロフォスファミドと比べミコフェノール酸モフェチルが、副作用が少ない効果的な治療薬として注目されている。本邦では移植後のみ使用可能な薬剤)。

発熱、皮膚症状の増悪などマイナーな病勢の悪化に対しては、中等量のステロイド投与や、ステロイドの軟膏を使用することが多いと思われる。関節痛に対しては非ステロイド系抗炎症鎮痛薬で様子を見ることもある。


全身性エリテマトーデス(SLE)合併妊娠


特徴

SLEの活動性がある場合、妊娠中、分娩後それぞれ60%、100%と高率に悪化します。
そのため活動期での妊娠は、母体、胎児への危険を伴い、避妊が望まれます。
ステロイドの内服量がプレドニン20mg/日以下で、SLEの活動性が無く半年以上病気が落ち着いている時期に妊娠、出産することが適している。 チェックすべきこと

半年以上SLEの活動が落ち着いていること
SSA抗体の有無(分子量52kD,60kDの2種があり特に52kDは新生児ループスを起こしやすい)
抗リン脂質抗体症候群の合併の有無(ループスアンチコアグラント・抗カルジオライピン抗体

管理
妊娠中は主にプレドニゾロンにてコントロールを行う。
プレドニンは胎盤通過時期に代謝され、不活性のプレドニンに変換されること、胎児血中のプレドニンは母体血中のプレドニンの1/8~1/10であることより常用量のプレドニン投与では胎児への影響はほとんど無く安全だとされている。授乳に関してはプレドニン換算で20~30mg/日までは安全と考えられています。念のためプレドニン内服後4時間は授乳を見合わせても良い。
抗リン脂質抗体症候群: ヘパリン療法


新生児ループス

母から胎児へ胎盤を通して移行した抗体(特に抗SS-A抗体(陽性例の約10%))により皮疹、血球減少、心ブロック(心臓の電導路の障害)などがみられることがある。
抗SS-A抗体陽性例の約1%だが児の房室ブロックは緊急病体であるため注意が必要。
移行した抗体の減弱により、症状は生後6か月くらいまでには軽快する。
予防としてSSA抗体陽性の場合、抗体量を減らすために、血漿交換療法で抗体の除去やステロイド剤(抗体の産生をおさえる)投与を行うこともある。
胎児へのSLEの遺伝性の影響は小さく、新生児で自己抗体の上昇がみられた場合は母からの胎盤を介した移行抗体によるものの可能性が高い。